病的ひきこもり国際診断基準の提案
Pathological Social Withdrawal
2022 年2 月改訂
(Kato et al. World Psychiatry 2020 & Psychiatry and Clinical Neuroscience 2019を元に作成)
定義
病的な社会的回避または社会的孤立の状態であり、大前提として自宅にとどまり物理的に孤立している状態である。
下記の3つをすべて満たすこと:
- 自宅にとどまり社会的に著しく孤立している。
- 社会的孤立が少なくとも6ヶ月以上続いている。
- 社会的孤立に関連した、臨床的に意味のある苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
外出頻度が週2-3回を軽度、週1回以下を中等度、週1回以下でかつ自室からほとんど出ない場合を重度とする。外出頻度が週4回以上の場合には診断基準を満たさない(注:夜間コンビニに行く程度の短時間の外出は、外出頻度の回数に加えない)。期間が3ヶ月以上で6ヶ月未満の場合は「前ひきこもり(pre-hikikomori)」とする。社会的状況を回避したり精神疾患を併存している者は少なくないが、ひきこもり状況での評価は容易くない。したがって、今回の定義では「社会的回避」は必須項目にせず、「併存症の有無」は問わない。③に関して、ひきこもりの初期段階では孤独感といった主観的苦痛を認めないことが多く、機能の障害と併せて慎重に評価すべきである。
補足項目
以下の補足項目(specifiers)は必須項目ではないが、ひきこもりの状態を詳しく把握する上で重要である。
- 社会的参加.
学校や仕事といった社会参加の有無や程度を評価する。医療福祉機関や支援機関に通院・通所しているかどうかも評価する。この補足事項はニート状態(not in education, employment, or training, NEET)にあるひきこもり者の評価に役立つ。 - 直接的な交流.
自宅外で意味のある直接的な対人交流が週2-3回(軽度)、あるいは、週1回以下(中等度)に限られているかどうかを評価する。同居する家族との直接的な交流もほとんどない場合は重度とする。買物などでの挨拶程度の交流は意味のある交流に含まない。この補足事項は、ソーシャルメディアやオンラインゲームといったデジタル通信技術を介した社会的交流を持っているひきこもり者でも該当しうる。 - 間接的な交流.
現代社会におけるインターネットの普及により、ウェブなどの技術を介した間接的な交流が日常生活に普及してきている。したがって、直接交流に加えてこうした間接交流の有無を評価すべきである。ひきこもり者の中には、ソーシャルネットワークサービスやオンラインゲームを通じて双方向性の間接的交流を日常的におこなっている者もいる。 - 孤独感.
ひきこもりの経過が長くなればなるほど孤独感を持ちやすくなる。初期段階では孤独感をもたないこともありうる。 - 併存症.
回避性パーソナリティ障害、社交不安症、うつ病、自閉スペクトラム症、統合失調症といった精神疾患の併存が稀ではない。 - 発症年齢.
成人早期に発症することが多いが、30歳代以降に発症することも稀ではない。 - 家族パターンや家族力動.
家庭における社会経済的状況や養育スタイルがひきこもりに影響を与える可能性がある。 - 文化的影響.
ひきこもりは日本で最初に報告されたが、最近では東アジアや欧州諸国など多くの国で報告されるようになっている。何らかの社会文化的状況がひきこもりの国際化に寄与している可能性がある。 - 介入/治療.
いまだ強固なエビデンスに基づく介入/治療法は開発されていないが、薬物療法(特に精神疾患を併存する場合)、サイコセラピー、ソーシャルワーク、家族支援といった様々なアプローチが実践されている。上記項目の評価に基づき、個別性に配慮した介入が望まれる。
原著:
Kato TA, et al. Defining pathological social withdrawal: proposed diagnostic criteria for
hikikomori ,World Psychiatry, 19(1), 116-117, 2020
https://doi.org/10.1002/wps.20705